はじめまして(ご挨拶)

1970年北海道生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了。埼玉県の公立小学校で22年間教員を務め、東京学芸大学大学院准教授、軽井沢風越学園校長を経て、2026年4月に真鶴町教育長に就任。「子どもこそがつくり手」という信念のもと、子どもや教員、地域の人々と対話を重ねながら、2030年開校予定の義務教育学校づくりに取り組む。

所信表明(2026年4月1日)

本日、真鶴町教育長を拝命しました。  

三方を海に囲まれた真鶴半島、豊かな照葉樹の森、坂道の向こうに広がる相模湾の光。この美しい町で、まなづる小学校と真鶴中学校に通う約300人の子どもたち、ひなづる幼稚園、石田保育園、貴船愛児園の園児たちが日々育まれています。その育ちを長年にわたって支えてこられた先生方、教育委員会の皆さん、民間の担い手の皆さん、保護者や地域の方々に、まず深く敬意を表します。

私はその積み重ねの上に立って、新しい一歩を踏み出します。この町に居を構え、住民として暮らしながら、真鶴の教育の更なる発展に全力を注ぎます。

真鶴町は人口約6千人の小さな町です。高齢化率は45%を超え、神奈川県で唯一の過疎認定自治体でもあります。しかしこの町には、全国のどこにもない宝があります。

1993年に制定された「まちづくり条例」及び「美の基準」。数値ではなく、「場所を尊重する」「風景を支配しない」「すべてのものの基準は人間である」という言葉で町の美しさを定義しました。30年以上にわたり、住民一人ひとりがこの町の景観と暮らしをつくり続けてきたのです。

私はここに、教育の原点を見ました。子どもは教わるだけの存在ではなく、自ら学びをつくる存在である、と。これが33年間の教育実践、マネジメント経験を通じて私がたどりついた信念です。町民が町の景観の「つくり手」であるように、子どもたちが自身の学びと学校の「つくり手」になる。「美の基準」の思想と私の教育哲学は、根底でつながっています。ですから、この町に住むことを決めました。

【子どもこそがつくり手】
私は埼玉県の公立小学校に22年間勤めました。教室の中で「子どもが自ら学びをつくる」実践に取り組む中で気づいたのは、授業を変えるだけでは足りないということでした。子どもたちが「つくり手」になるためには、授業だけでなく、行事や学校のルール、日々の生活そのものを子どもと一緒につくる学校文化が大切です。教室の実践を、学級づくりへ、そして学校づくりへ。22年間かけて、その射程を広げてきました。

大人が環境を整え、信頼して手渡せば、子どもは自ら学びをつくり出す力を持っている。公立学校の教室で、私が子どもたちに教わったことです。

その後、東京学芸大学教職大学院での教員養成を経て、軽井沢風越学園の校長として6年間、3歳から15歳までが共に学ぶ学校をゼロからつくる経験をしました。カリキュラムの設計、異年齢の学びの仕組みづくり、教員研修の体制構築、そして建築家と協働した校舎の設計。学校を「まるごとつくる」プロセスに、構想段階から開校・運営まで携わりました。

同時に、多くの壁にもぶつかりました。例えば、探究の学びの質をどうあげていくのか、探究の学びと教科の学びをどう両立させるのか。カリキュラムを何度もつくり直す中で、先生方に大きな負荷をかけたこともありました。

理想の学校は、どこにも存在しない。日々悩みながらつくるプロセスそのものが学校づくりであるという実感もまた、大切な学びです。

風越学園の経験をそのまま真鶴に持ち込むつもりはありません。私立と公立では、子どもの背景も、制度的な条件も、地域との関係も異なります。しかし、カリキュラム設計、校舎の建築設計、教員研修の仕組みづくり、そして義務教育学校の立ち上げそのもの、このすべてを一貫して経験している教育実践者は、全国的にもきわめて稀有な経験であると自負しています。この経験は、2030年の義務教育学校開校を目指す真鶴で、十二分に活かせると確信しています。

ただし、この道のりは簡単ではありません。時間がかかります。現場の先生方の声を聴き、教育委員会事務局の皆さんと対話を重ね、一つひとつ合意を積み上げていく。拙速に変えるのではなく、納得のプロセスを大事にしながら、歩みを進めていきます。

【2030年義務教育学校を、町ぐるみでつくる】
真鶴町は2030年4月、まなづる小学校と真鶴中学校を統合し、義務教育学校を開校する予定です。1年生から9年生までが一つの学校で学ぶ、この町の教育の大きな転換点です。 基本構想・基本計画はすでに策定され、「4-3-2制」の学年区分、町独自教科「まなづる未来学(仮称)」の構想、真鶴中学校敷地への新校舎建設が決まっています。

この構想を、確かな教育の中身(ソフト)を伴って実現すること。それが私に課せられた最大の責務です。これまでのプロセスを尊重しながら、教育委員会と首長部局が連携し、町を挙げてこの学校をつくります。

2026年8月、中学生がまなづる小学校に移動し、小中の子どもたちが初めて同じ校舎で過ごす日が来ます。この移行期間を、単なる仮の措置ではなく、新しい学校の教育を実地に試す機会にします。同じ校舎にいる異年齢の子どもたちがどう学び合えるか。探究的な学びと教科学習をどう両立するか。先生方と一緒に試み、一緒に振り返りながら、2030年の開校に向けて積み上げていきます。

新校舎は東畑建築事務所と緊密に連携して設計を進めます。「美の基準」が大切にしてきた、場所を尊重し人を基準にする思想を、学校建築にも生かしたい。学校と地域の境界をゆるやかに混ざり合う「縁側」のような空間 -子どもたちの学びが町に開かれ、町の人々の知恵や経験が学校に流れ込む- そんな学校を、町民の皆さんと対話を重ね描いていきます。後述するソフト(カリキュラム)とハード(校舎)が融合し調和した学校を目指します。

【教育長として取り組む3つの重点施策】
第一に、【「ソフトへの投資」として、先生方を支える(仮称)「真鶴町学び共創室」を設置】します。

真鶴の教育を変えていくのは、制度でも施設でもなく、人です。そして、教育改革の最前線に立つのは、毎日子どもたちと向き合う先生方です。

教育委員会には管理や事務手続きという欠かせない機能があります。それに加えて、先生方の日々の授業や実践を支え、共に悩み、共に考える機能を持たせたい。そのための専門組織として、(仮称)「真鶴町学び共創室」(英語表記:Manazuru Education Commons)の設置を準備します。

先生方にとって、明日の授業について気軽に相談できる相手。一緒に教材を考えてくれる仲間。子どものことで迷ったときに、隣で一緒に悩んでくれる存在。そういう人を、真鶴の教育のために迎えたい。必要な人材に対し、積極的に投資をしていく方針です。

(仮称)「真鶴町学び共創室」は、先生方に何かを「させる」組織ではありません。先生方が安心して新しいことに挑戦できるよう、後ろから、隣から支える存在です。教育委員会が「共につくる組織」を目指す。その象徴が(仮称)「真鶴町学び共創室」であり、後述するカリキュラムづくりにおいても学校に伴走します。

第二に、【探究と教科の学びが支え合うカリキュラムを、先生方と共に設計】します。

義務教育学校の制度的な柔軟性を活かし、9年間の系統的なカリキュラムをつくります。(仮称)「まなづる未来学」では、真鶴の漁業、本小松石の石材業、「美の基準」のまちづくり、相模湾の自然環境など、この町でしかできない探究に取り組みます。

真鶴町では探究の学びと教科の学びの両方を大切にします。教科の学びの充実なくして深い探究はできず、探究の経験が教科の学びをより豊かにする。この両輪を回すことが、すべての子どもを受け入れる公立学校の責任です。特別な支援を必要とする子、学校に来づらさを感じている子どもを含め、すべての子どもが自分らしく学べる環境、カリキュラムを整えます。

カリキュラムとは「子どもの経験の総体」のことです。よりよいカリキュラムは毎日教壇に立つ先生方の実感と知恵なくしては生まれません。(仮称)「真鶴町学び共創室」を軸に、先生方と対話を重ねながら、時間をかけて練り上げていきます。ひなづる幼稚園から義務教育学校の9年間、さらにその先へ。子どもたちの育ちが途切れなくつながるカリキュラムを目指します。

第三に、【子どもの声と町民の声が届く、開かれた教育】をつくります。

「子どもこそがつくり手」は、掲げるだけの理念ではありません。例えば学校行事の企画、ルールづくり、新校舎やカリキュラムについての意見表明。子どもたちが自分たちの学校について考え、提案し、実行する機会を具体的につくります。2030年の義務教育学校の開校準備にも、子どもたちの参画を期待しています。

教育改革の過程は、保護者・町民の皆さんに率直にお伝えします。何がうまくいき、何に苦労しているか。成果も課題も隠さずに共有し、対話の場を設けます。教育は学校の中だけで完結するものではなく、町全体でつくるものだからです。

加えて、教育行政の実務 -予算編成、県教育委員会との連携、議会への説明- にも全力で取り組みます。教育委員会事務局の職員の皆さんの力を借り、私自身も学びながら、教育の理念と行政の実務を両立させていきます。

結びに、33年間の教育実践の中で、最も大切にしてきたことがあります。それは、数人の美しい物語で、全体を語らないことです。華やかな成果の陰で、戸惑っている子はいないか。声を上げられずにいる先生はいないか。一人ひとりの姿を見つめ続けることが、教育長としての私の出発点です。

真鶴は小さな町です。小さいからこそ、すべての子どもの名前と顔を知ることができる。一人ひとりの育ちに、学校と家庭と地域が共に関わることができる。この町の「小ささ」は、教育にとって最大の財産です。

真鶴町での15年間の育ちと学びを通して、私が子どもたちに願うのは「私(たち)は自分自身と未来のつくり手なのだ」という確かな自信とふるさとへの誇りに満ちた姿です。輝く相模湾を望む真鶴の豊かな自然や歴史、半島まるごとをフィールドにして学んだ子どもたちは、地域の大人の背中に学び、人々と校舎や背戸道で語らう中で、町の未来を自分ごととして捉えていくでしょう。多様な価値観の中で、仲間と探究し続けた経験を携えながら、それぞれの人生を力強く歩み出していくでしょう。真鶴を愛し、自分自身と周りを変革し続ける「未来のつくり手」である子どもと大人たちの笑顔が町中にあふれる。それが、私が皆さんと共につくりたい真鶴の教育の姿です。

簡単な道のりではないと覚悟しています。変化には時間がかかりますし、すぐに成果が見えることばかりではないかもしれません。それでも、対話を重ね、小さな手応えを一つひとつ積み上げていけば、この町の教育は必ず変わっていく。「美の基準」を30年以上かけて育ててきたこの町の力を、私は信じています。大切な道のりを共に歩みましょう。

子どもたちが自らの学びと人生の「つくり手」として育つ教育を、真鶴の皆さんと共につくっていく。その覚悟をもって、教育長の職に臨みます。

                                                                                 2026年4月1日
真鶴町教育長 岩瀬直樹

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更新日:2026年09月29日